ほむらしのびて
荒い息遣いが、空気の中を漂っていた。うつ伏せにな
った尻に幾度と無く体がぶつけられる。欲の晴らし合い、
只それだけ。睦言なんて、ある筈が無い。
「京と蒼は、また一緒か?」
「そうでしょう。しっぽりと濡れているんじゃねェで
すか」
座頭…神代宗太夫の問いに剛力の栗山熊春が応える。
さっきまで組み布かれていた熊春は胡座をかいて座り、
宗太夫は煎餅布団に腹這いに寝そべり、煙管を悠々と
吹かしていた。
「そんなでけェ形して拗ねるんじゃねぇよ。京に妬
いてんのか?」
「妬いてる、か。ま、蒼の新鉢が欲しかっただけで
すけどさ」
「てめぇのを挿れたら壊れるじゃねぇか!俺や京み
てぇに慣れた奴なら兎に角としてよ」
煙管で叩く仕草をして、遠い目になる。
「あいつが好いた腫れたに心動かす、か。俺にゃ出
来ねぇ芸当だな」
熊春を招き寄せて、胡座をかかせた上に跨りふぅと
息を吐く。辛気臭い考えを払おうとしての魂胆だった
が、熊春が絡んできた。
「俺が来る前、でしたっけねぇ。親方があいつを拾
ったのは」
「おうよ。あいつも、長崎から流れてきた。それ以
外は知らねぇがな」
受け答えしながらも腰を動かす。随分と年季の入っ
た腰だ。
「流れ稼業だしな…あいつの面を見こんで随分色も
売らせた。女にも、男にもな」
下手をすると熊春の方が先に果てそうになる。其処
を何とか押さえて言葉を繋ぐ。
「何で今はしてねぇんです?今だったら」
「続かなかったんだよ。買った旦那衆によく言われ
たもんだ。京には情の欠片もねぇ、とよ。体の具合は
蕩けそうに好い。でも、事が済んだ後見透かされるよ
うな静かな目付きされるとゾッとする、ってな。だか
ら、おめぇが来た頃にはもう客は取ってなかった。表
商売で充分事足りたしな」
言いたい事を言うと、腰を揺すり立てて息を荒げる。
「さあ、気を遣ってくれや。年寄りを急かすんじゃ
ねぇ」
そして、弾けた。
もう充分満足だろう。そう思って囲いの片隅に投げ
捨ててあった紅い下帯を拾い上げ、収まり良く締めて
行く。
「苦労、かけるな。おめぇにも」
まどろんで居たと思った宗太夫に声をかけられ、苦
笑いする。
「好きあっている奴等を引っぺがす訳にゃいかねぇ
でしょう。俺ぁまあ親方の味も気に入ってるからいい
んですけどね。親方こそ、さっきの物言いだと京とは
枕を交わしてねぇんでしょう?良く我慢が効きました
ねぇ」
「商売道具に手を出してどうするよ」
悪ぶって言い捨てる。
「あいつの目の中に、入る事が出来んのは蒼だけだ
った…それだけのこった」
しみじみと言葉を続け、また一服。そして、熊春に
煙管を差し出す。
「俺ので悪いが、吸いつけ煙草、どうだ?」
「…頂戴します」
月明かりを浴びながら思う。全く損な役回りだ。一
目惚れをしたと思ったら其の相手は初恋の相手に奪わ
れて…そして自分は振り向いて貰えぬ同士で肌を合わ
せて気を紛らわして。
それでも、まあ今宵は好い事も合った。肌を合わせ
た相手と、心が通っていたと判っただけでも救いなし
よりマシってなもんだ。
…そういや、親方の口を吸った事は無かったな。さ
っきの吸い付けが口吸いの代わり、か…
熊春は一人、草原の上で赤くなった。