家族’-kyosuke-
物理的に拘束するのと心理的に拘束するのとでは、ど
ちらの効果がより高いのだろう。
今回皆と肌を重ねたのは、いわばその度合いを確認す
る為の実験だ。極めて個人的な感情に基づいた。
神代さんを求めたのは、無意識。
蒼を求めたのは、多分独占欲。
深春を求めたのは…友情の変形?
問題なのは、何故そこに肉体関係が必要だったのかと
いう事だ。少なくとも精神的な繋がりが確保できている
なら、肉体関係は却って邪魔な筈だ。同性同士であり、
ましてや家族的な関係なのに。
家族…的?
何なんだ、今の考えは?
これは桜井京介の思考回路には無い筈の言葉だ。第一
僕は家族を欲しいと思った事なんて…あったな。
考え至って京介は自嘲する。蒼を手元に留めて置きた
いと言う感情こそが母親的な考えの一端でなくて何なの
だ。神代さんに自分が安心して甘えている光景こそ、親
子でなくて何なのだ。深春は?立場は其の度入れ替わる
がパートナー的存在ではないのか?
「参ったな。今まで判ってなかったのは僕一人と言う
訳、か」
ベッドにバスタオル1枚巻きつけた姿で腰掛け、冷蔵
庫から水割缶を出して一口飲む。横では屍が累々と3体。
其れはそうだろう。2夜に渡り一人20ラウンドはこな
したのだ。常人ならば到底無理だろうが、生憎と蒼・京
介・深春は割にタフな方だったし、神代の場合は眠って
いた快楽に火が付いたのだから。流石に空調設備が整っ
た部屋なので交渉後特有の臭気が篭る事は無い、が、ゴ
ミ箱を見ればその名残を味わうのに充分だ。
彼等をこういう関係に巻き込んだのは京介。ならば…。
「責められても怨まれても、自業自得だな」
「何考えてやがる」
「神代さん、起こしちゃいましたか」
「気にするねぃ。年寄は朝早ぇと相場が決まってんだ」
「まだそんなお歳じゃないでしょう?朝から深春と一
戦交えられれば」
「お前ぇだって蒼とお盛んだったじゃねぇか!…あっ
たく、こうでもしねぇと他人の気持ちも判んねぇのか、
ン?」
「教わらなかったし、煩わしいだけでしたからね」
「今は、どうだ?」
「愛しいですね。本当に、只愛しい。それ以上の言葉
を捜せませんよ」
「だとよ」
その言葉を合図にしてか、深春と蒼が起き上がる。
「お前にもそういう感情があると判って、安心したぜ」
「後悔してないからね。こういう関係になった事」
「蒼……深春……」
「いいじゃねぇか、こういう関係があったとしてもよ。
精神面を補うのに身体が元気過ぎただけのこった」
「神代さん…その股間で言ったら詭弁にしか聞こえな
いんですが…」
「俺の事を言える奴、ここに居るか?」
「居ませんね。あれだけ動いたというのに、下半身は
極めて元気ですよ、皆」
でもそれは肉欲とはかけ離れた興奮だったのかも知れ
ない。お互いの心が本当に通じたゆえの喜びが、偶然に
も本能と重なったのだろう。多分。
「確認の為に、もう一回」
号令をかけたのは、京介だった。
京介と蒼が互いを口で愛撫し、深春は蒼の中に、神代
は京介の中に。やがて果てると京介の前に神代、後ろに
深春、胸の突起は蒼。…饗宴は、5ラウンド続いた。
例えこれが背徳の行為だったとしても、皆と一緒なら
乗り越えられるだろう。これが、僕達にとっての家族の
形なのだから。