家族’-sou-

  其の光景を蒼に見られたのは、多分アクシデントだ。
多分、などとわざわざ注釈を入れたのはひとえに一緒に
いた奴の所為。あの野郎が、蒼に見られる事を意識して
行動に出た、と疑わざるを得ないからだ。
 朝っぱらからいきなり抱きついてきてキスして来やが
る。それも開けた襖を碌に閉めず、さあ御開帳、てな感
じだったんだから…まず間違いねぇ。
 救いがあったとすりゃ、蒼が俺にウィンクを返して其
の場を離れてくれたってぇ事だわな。頬は引きつってた
がよ。
 蒼もいい加減大人だ。この辺で話といた方が良かろう。
孫…、いや、息子、みてぇなもんだしな。

 其の晩。部屋の襖が静かに叩かれた。ノックの相手は
凡そ承知しているが、一応声をかける。
 「誰でぇ」
 「ぼくです」
 「蒼か。入ェれ」
 促されて少し手間取りながら襖を開ける。ああ、そう
か。一升瓶を片手に下げていたのか。一度床におけば良
いものを。
 「呑みませんか?」
 「自分で選んだのか?」
 「コンパで結構味、覚えますから。多分先生の好みに
も合うかな、と」
 「じゃ、御馳になるか」
 「…肴、忘れてた」
 「粗塩でも舐めるさ。まぁ、座れ。聞きてぇ事も言い
てぇ事も、有ンだろ?」

 話したい話題はお互い充分承知していて、暫し無言で
酌み交わす。随分上物を張り込んだらしく、水の様に杯
が進む。もっとも手放しに酔える筈が無いのは百も承知。
只、互いに勢いと口実が欲しかっただけだ。
 「キス、だけですか?」
 膠着を破ったのは蒼。俺を見る目はいつも以上に真剣
だ。だから、誤魔化さず洗い浚い話そうか、と思う。俺
と京介の位置関係を。

 「輝額荘の一件は、知ってるな?」
 深く、噛み締める様な頷き。それを見て言葉を繋ぐ。
 「あの後、棲処を無くした京介を俺ァも一度引き取っ
た。そして、二月もせずお前ェも家にきた。でもな、そ
の間のあいつは、もう目も当てられなかった」
 思い出す為に深く息を継ぐ。そう、あの姿は最初に引
き取った時以上に、鬼気迫っていた。
 「あいつが其処迄背負い込むなんざ、正直思ってなか
ったからな。何てぇ事を仕出かした、と俺も又手前を責
めたもんさ」
 「でもそれは、事件を終わらせて…哀しみが増えるの
を止めたかったから、でしょう?」
 「其の理屈で俺もあいつを動かした。確かに治まりは
したが、誰も無傷ってぇ訳にゃいかなかった。あいつだ
ってそうだ。親代わりってぇ面ブラ下げて、情けねぇ話
さ」
 苦さを一纏めにして吐き捨てる。何時しか京介は強く
なったのだ、と。そう思い違いをしたあの頃の自分を責
める様に。
 「だから、」
 ぐっ、と湯呑みの中身を一息で空け、蒼の目を正面か
ら覗き込む。
 「京介が、あの意味で俺を求めて来た時、拒もうとは
思えなかった。俺の身体であいつをこの場所に繋ぎ留め
られるんなら儲けもんだと思った。だから、抱いた」

 「…そう、だったんですね」
 「あまり、驚かねぇな」
 「薄々判ってました。ぼくも求められて…」
 「立場違えど、理由は同じ、か」
 「多分」
 うっすらと、哀しげに微笑む。
 「ずっと、ぼく達は家族だ、って、思ってました」
 「だな」
 「身体で結ばれてる、こんな関係、何て言えば良いん
でしょうね」
 的確な言葉を返してやれない自分が、只腑甲斐なかっ
た。それ程迄に頼りない関係なのか、と、自問も繰り返
して。
《コメント》
随分重いトーンになりました。基本設定は原作典拠です。 「灰色の砦」から「原罪の庭」の間の空白にヒントを。 でも、書き留めて置きたかった感情の問題でもあります。 と、高邁な理想を掲げた割に段々濃厚になりますが…

家族’-ao-

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