蒼が、成人式を迎え、さっき式典に出かけた。
柄でもない、と照れてはいたがそれでも同級生連中に
誘われていそいそと出かけていった。
「早いもんだね」
「他人事みたいだな」
「蒼とは基本的には他人だ」
そう言う口元が緩んでるぜ、京介。お前だって嬉しい
んだろうが。
「僕の成人式は、君が迎えさせてくれた、ね?」
素っ気無い口ぶりだが、其の台詞と同時に俺の小指に
絡ませた小指は、かなり紅い。
「誘ってないか?」
「悪い?」
「…悪くない」
耳元に唇を寄せて、囁いてやる。
「綺麗だな。あの頃も綺麗だったけど、段々綺麗にな
ってゆくな、お前」
「君が変えてくれた。あの夜からね」
そう、始まりは、俺が日本に帰って来て直ぐに迎えた、
成人式の夜だった。
其の日、京介は式典には出なかった。まあ、あの頃の
状況では無理だろうな。蒼はまだまだ一人での留守番な
んて無理だったし、俺が留守番をしたらどうなるか判ら
ん。第一、京介はそう言う類のものが基本的に嫌いだ。
だから、俺が二人分の気持ちを篭めて行って来た。も
っとも、只眠たいだけだったが。
「お疲れ様、栗山」
「蒼は?」
「寝ている。今夜はグッスリみたいだな」
軽い溜息。疲れてるんだろうな。秘蔵の奴を出してや
るか。
「茶、淹れるけど飲むか?」
「ジャスミンティー?有難いね」
神代さんは今夜帰って来ない。どうやら大学の方の内
輪揉めに巻き込まれたらしい。
『蒼が居なきゃ、二人きり、か』
…何考えてるんだ、俺?桜井は男だぞ!
「顔、赤いね」
背中から抱きつかれる。おいおい、何の真似だよ。
「成人式のお祝い、君から貰ってないね?」
「何をやればいいんだよ?」
「君自身を今夜一晩」
「性別、判ってるよな?」
「だから、今夜一晩だよ。言ってみればお試しだね」
「…どっちの役をやればいいんだ?」
「空間を埋めて欲しい。そう言えば判るよね」
抱いている時に、不意に名前を呼ばれた。
何度も何度も、母親を捜す迷子の泣き声みたいに。
心底愛しくなって抱きしめた。其れからが多分本当の
始まり。
そしてフィニッシュ。
歯を食いしばって絶頂を堪える耳元にそっと囁いた。
「京介」
同時に弾けた。
目には見えないけど、多分俺達の傍に居る存在に向か
って祈る。京介が、蒼が俺から離れる事の無い様に、と。
所詮は其れがエゴだとしても、喪いたくない。
俺の、天使と猫を。この日だからこそ、強く願った。