縛られたいと思うのは、僕の我儘なんだろうか?
自由な僕が好きだ、と君は言ってくれたけど。
君に縛られない僕の何処が自由なんだろう。
何処にも行けず彷徨っているだけだ。
M…付属高校柔道部主将、栗山深春は冬休み中も稽古の為に
学校通いをしていた。寒さは特に苦にならない性質だし、却っ
て休み中の方が早起きになる、と喫茶店「ALTO」経営の母
からは嫌味を言われつつ、張り切って通っていた。
稽古が好きだという事もあるが、もう一つ、彼の胸を暖かく
する理由がある。彼と毎日会えるからだ。
同じ頃。
同校生徒会書記・薬師寺香澄は登校時に何時もやる服装チェ
ックを入念に行っていた。
全体に漂う愛らしさ、其の中に時として見せる冷静さ。其の
雰囲気から「蒼猫」の愛称で知られる彼もまた、胸躍らせてい
た。
と言っても今日の用事は取るに足らない苦情処理なのだが、
『あの人に会える』と思うだけで、灰色の現実も一転して薔薇
色になる。
そして、茶道部内の茶室。
茶道部部長・桜井京介は点前の段取りを確認していた。部員
達を前にしての初釜の前に行う、彼との密会の為に。
障子が、もどかしく開けられる。
「どうぞ」
新年最初の客人を前にして、柔らかく微笑む。
「よく来たね、深春。さあ、先ず一服」
「相変わらずだな」
「嗜みだからね」
軽口を叩きながら、着物の裾を少し捲って見せる。下着の痕
跡は、無い。
「…大胆…」
「『ふざけてました』で済むしね。それとも、全部の方がい
いかい?」
「偶には、こんなのもいいか。刺激的で」
茶碗を干すと、裾を割って脈動する京介自身に触れる。
「凄ェ濡れてる」
「期待してるのは君だけじゃ無いって事」
重なり行く体。
香澄は、障子の隙間から二人の情事を見ていた。ほんの出来
心。薄々は気付いていた事とは言え、目の前の現実には打ちの
めされる。目を背けたくても背けられない。京介が余りに綺麗
で、淫らで。
何時しか、利き手は股間に至り、彼自身を慰めようとしてい
た。其の刹那、
「おいで、蒼」
誘惑の声。
「君の視線には、気が付いてた」
深春に貫かれながら、蒼自身を舌で清めてゆく。
「でも、深春に出会ったのが先だったから。それに、君がこ
う言う関係を望んでいるかどうかも不安だったし」
「桜井…さん」
「駄目、名前で」
「京介、さん?」
「もう一息」
「きょう…すけ」
絶頂に至りそうになる。
「よく出来ました。深春、いいだろう?」
「気持ちは判るしな。こいつなら許す」
「じゃ」
仰向けになった蒼自身を蕾にあてがい、腰を静めてゆく。
蒼の頬にも京介と同じく淫らな茜が射し、そして、弾けた。
「君も点前を点てにお出で。待っているから」
遠くで聞こえる京介の声に、蒼は頷いていた。