分岐点

摂理に反する関係だと言う事は、最初から判っていた。
理性では充分過ぎるほど判っている。只人間には感情と
言うものもあるから、それで納得できないのだ。
大声で叫ぶ事が出来たらどんなにか楽だろう。
簡単すぎる言葉、でも、とても重い言葉。

「アリス、大晦日、どないすんねん?」
ラウンジでひねもすのたくっていると、望月が不意に声
を掛けてきた。
「どないすんねん…って、何時も通り家族で紅白観て、
蕎麦食って、後は特に何も無いですけど?」
「江神さんとこで騒がんか?」
「モチさん、今年も一人身なんですか?」
「ほっといたれや」
「言うたるな、アリス」
織田が会話に割り込んでくる。
「俺も今年は実家に帰らんねん。で、まあ、モチに
声掛けたらそないな流れになってな。あ、マリアにも
声掛けといたぞ。マリアも今年はこっちに居るそうや」
一瞬、胸が痛む。彼に悪気は無いのだろうが、僕とマリアは
結局「いい友達」でしかない。彼女が、選ばせてくれたのだ。
「肝心の江神さんは、何て?」
「『引っ越し祝い持って来い』やて。まあ、一升瓶2本も
あったらええやろ」
「あのお洒落なマンションでポン酒って…センス悪ぅ」
そう、江神さんは先日中古だが1DKのマンションに引っ越した
ばかりだ。其の裏の意味は、彼と僕以外は誰も知らない。
第一、どう説明すればいいのか、未だに戸惑っている。
「ええやないか!廉いんやし。で、どうすんねん?」
「…行きます」
ばれなかっただけでも、いいか。

今の所僕と江神さんの「関係」を知っているのはマリアだけ。
迷っていた僕の背中を押してくれたのも彼女なら、
ばれないようにと一緒に気を遣ってくれているのも彼女。
お陰で、最近は週に1度、彼との逢瀬を楽しみに
待てる様になった。
それでも、不安になる。
我儘だけど、喪う不安。
そして、背徳を責められる事への不安。
もしも、織田と望月が僕等の事を知ったなら、
どうするだろうか。
僕は憎まれても構わない。自分一人なら何とか庇える。
でも、江神さんを彼らが憎んだり、蔑んでしまったら?
其れが、堪らなく辛い。そして、江神さんを護れないで
只護って貰うだけの自分に、憎しみを覚えてしまう。

悶々としながら迎えた大晦日当日。
ドアを開けると、部屋の中には江神さんだけだった。
「皆は?」
「先帰った。これ、モチからお前宛」
封筒を手渡される。
                   
『アリスへ
ふらついた恋愛にならん様に、
今夜は確りレクチャー受けとけ。
マリアから聞いて信長も知っとる。
恋愛感情で他人を嫌う程、
俺等は下司ではないので安心する様に。
江神さんを泣かせたら、遠慮のうしばくからな。
                 望月周平』

「小賢しい奴等や。肝心のお前を不安にさせてからに」 
後ろから抱きすくめられる。
「泊まっていくやろな、当然」
「ええんですか、俺で?」
「お前やから、ええねん」
耳朶を優しく噛まれる。それだけで体は充分反応していた。

「カンパーイ!」
「お疲れさん!」
公園では、あぶれた3人がカップ酒を酌み交わしていた。
「ごめんなさい、お二人とも。変な芝居させて」
「ええがな、マリア。可愛い後輩と、
世話になった先輩の為や」
織田が、鮮やかにウィンクする。
「好きになったのがお互い男やっただけの話でな…それで
今までをチャラにする様な付き合いやったらアホ臭いしな」
「そう言うこと。マリアこそ、今までよう頑張ったな。
偉い偉い」
望月にくしゃくしゃっと頭を撫でられたマリアの瞳は、
一瞬潤んだ。でも、次の瞬間はいつもの彼女だった。
「年明けたら、アリスに奢って貰いましょうね。
今夜のお返しに!」

3回抱かれて、2回抱いて。そして、不意に目覚めて寝顔を
見つめる。規則正しく上下する胸板に耳を当てて、鼓動を
確認してみる。
勝手に不安がるのは、もう止めよう。
この人と、歩けるところまで、歩いてみよう。
心から、そう思った。

《コメント》
別の意味で濃くなりました。…うん、この二人は
エロには出来ませんね、多分。
江神さんがマンションに引っ越した意味…
それだけでも、アリスの不安解消にはなると思いますが、
…先輩二人の眼差しの暖かさが、今回書いてて気持ち好かった。

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