花ざかりの森

                  焦がれたとて詮無い事だ。焦がれても手に入らぬ
                 物が在ると気付いてしまえるほど、歳を重ねてしま
                 った。
                  だから、せめて自分の気持ちの鎮魂の意味で、と、
                 剃刀を手にした。

                  「あれ、深春?」
                  「おう」
                  「何かさっぱりしちゃったね」
                  「もう10年ぶり位だもんな。風通し良すぎて風
                 邪引きそうだ」
                  「どう言う風の吹き回し?」
                  「大した意味はねーよ。さっぱりしたかっただけ
                 だ」
                  そう、何もかもにさっぱりしたかった。それだけ
                 の事だ。離れる事なんて、今更出来ないからな。

                  自分にそう言う欲があって、其の対象が京介だと
                 気付いたのは最初の旅の途上ではなかったか。
                  どうしようもない滾りに自らを慰めていた時、ふ
                 と浮かんだ京介の顔に…我慢が効かなくなったのが
                 最初だった。
                  自覚したのは、まだ良かった。苦しむのは其処か
                 ら。蒼の存在が、まさか作用するとは思っても見な
                 かった。
                  蒼がまだ京介の「愛し子」でいる間は、大丈夫だ
                 った。でも、子供は何時か成長する。蒼の成長は望
                 ましい事柄だった、筈だ。
                  京介の傍で育ったから…京介を好きになるのは当
                 たり前で…京介だって、蒼になら…か。俺の出番は、
                 兄貴役でしかないって訳だ。其れか、時々あいつの
                 代理。
                  ……でも、これは言い出さなかった俺の咎。居心
                 地の良い関係に安んじきっていた俺への、誰かから
                 の竹箆返し。
                  髭と一緒に、さっぱりしよう。

                  蒼と京介に花見に誘われた、が、断って、神代さ
                 んの家に来た。一升瓶下げて。
                  「さっぱりしやがったな?」
                  「10年ぶりですからね」
                  「若返りやがって…早いもんだ。てめぇとも10
                 年越しかよ」
                  「全くね。神代さんの本性は直ぐ判りましたけど」
                  「俺にだって判ってるよ。…思い切ったか?」
                  「何をです?」
                  「京介」
                  …ったく、この人も意地が悪い。最初からお見通
                 しかよ。
                  「よくご存知で」
                  「あん時、てめえを旅に出したのは俺だ。あの後
                 ちいと悔やんでな。…てめえに京介を任せるべきだ
                 ったか、なんてな」
                  「だったら、蒼は救われんでしょう。良かったん
                 ですよ。これで」
                  湯呑みに満たされた酒の面に桜が一片。風情があ
                 るな。
                  「一夜の夢を、見にきたか?」
                  「お相手願えますか?」
                  「でも、忘れるな。あいつを好きになった事実は」

                  その夜、神代さんの腕枕で見た夢は花ざかりの森。
                  京介と蒼が微笑みあう姿を、神代さんの腕の中で、
                 そっと見ていた。


                  《コメント》
                    …何故生まれたんだろう?と頭を
                    抱えそうな神深。乙女深春。
                    髭無しはミステリーDX掲載時に
                    見たのを思い出して組み込みました。

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