ひたか川僕の体を貪って疲れ果て、泥の様に眠る横顔を そっと撫で、髪に指を絡ませる。 「もう、十三年にもなるのか」 呆然と呟いてしまう。時の流れは速いものだ。 そして、人間の運命なんて、自分の意思で動かそ うとしても中々動かせないものだ。まさかあの日 の出会いの瞬間、この少年と体を重ねる日が来る なんて思いもよらなかったし、もっと早く彼とは 離れるつもりだったのだから。 「そして今は…僕の方が虜、か」 自分の無様さについ嘲り笑いが出てしまう。此 れで前世の因縁でもあったらまるで何時ぞや読ん だ伝説の大蛇に巻かれて入水した修行僧だ。 「蒼になら、」 取殺されても良いか、と納得する自分が居る事 を、今更厭う事は無い。寧ろ愛しく思うばかりだ。 やっと手に入れた。 本当にこの人を手に入れるまで、随分長い道程 だった。 再会まで三年近く掛かった。 体が結ばれるまで其れから更に五年。 漸く、心もこの感情を基に重なってきた。 恐らくこの思いだけで罪科になるんだろうな。 一目見た時から、この白い肌に、このほっそりと した体に、或る感情を抱いていた。只、ぼくは余 りに其の時幼かったから、其の正体が判らなかっ た。 其れをはっきりと自覚したのは、初めて眠りの 中で精を洩らした時。 跳ね起きて、そして反芻された記憶の中で、ぼ くは京介を…。 「起きたのか?」 「京介…辛くない?」 「まだ平気。蒼こそ、大丈夫か?」 「京介となら平気。ほら」 言葉と違わぬ元気さを掌に感じる。其の熱さに 愛しさが込み上げる。 「きょう…」 息もあがるだろうな。敏感になっている所をい きなり口に含んだのだから。 此れが堕ちると言う事なら、一緒に堕ちよう。 そうする事で、離れずに済むのなら…いっそ…。 《コメント》 一寸重くなりましたか? タイトルは「安鎮・清姫」の道成寺説話の 別パターンから取りました。 他人から見て不幸でも、当人達にとって幸 せと言う事はあるのでしょうね、きっと。 |