翠の瞳を見る前に西片町の先生の家に、久し振りに泊まった。深春にも、 京介にも今は一寸会いたくなかったし、自分の部屋がある といっても…あんな寒い部屋で今夜は過ごせる自信が無か った。 「寝たか?」 「いいえ」 「そう、か」 先生の、軽い溜息が聞える。 「迷惑、でした?」 「莫ァ迦。そんなんじゃねぇよ」 少しばかり照れの雑じる声。 「おめぇも京介に変なところが似たな、と思ってな」 「どんな所が?」 小さな頃の「どうして坊や」に戻っちゃおうか。今夜だ けは。 「話せば楽になる事を、必死で堪える所。人間なんだか ら、堪えきれねぇ事だってあらァな。其れをよ」 「京介も、そうでした?」 「だったな。中々寝付かなかったのもそっくりだ」 言ってから不意に黙り込む。どうやって寝かし付けて貰 ったのか、今の僕なら知っている。だから、今夜ここにい る。 「…言ったら、寝かし付けて貰えますか?」 我ながらみっともないほど擦れた声だな。 「寝かし付けるだけはな。訳は言いたくねぇだろ」 「…ハイ」 頭を先生の胸板に押し付ける。 浴衣の端を噛んで湧き出る声を抑える。 「堪えなくていいぞ」 でも、この家は結構防音性という事を考えたら…そう言 えば京介と深春の声もよく聞えたよね。耳年増どころか、 確り刷り込まれたもん。女の子に興味が無い訳じゃ、無い けど。 快感は勿論ある。其れと同時に感じる不思議な安らぎ。 京介を抱く時は、只京介の綺麗な表情の変化が見たくて腰 を振っている。深春に抱かれる時は其の荒々しさに揺さぶ られているのが心地よくて、直ぐに理性を手放す。 でも、先生は…。 ぼくと向かい合わせになって杭を打ち込む間にも、決し て変わらない優しい眼差し。緩やかな動きだけど、其れが 徐々にぼくを追い上げてゆく。 「せん…せ…いっ…」 堪えきれなくなったぼくの囁き。そして、流れ込む熱さ。 其の侭気を失ったのだろう。再び気付いた時には身体は 拭われ、浴衣を纏わされていた。先生は、何も無かった様 に横で軽い鼾を立てている。 「おやすみなさい」 軽く唇を重ねて、ぼくも眠りについた。 次の哀しい出来事を、予想することさえなく。 《コメント》 「翡翠の城」ネタバレ編です。 さくやさんからBBSで振られていざ!書き出してみると…う〜む。 神代先生テクニシャン説を証明できなかった^^; 葡萄瓜のパターンの一つ「思わせぶりっ子」になってひまった。 |