GREENEYED CAT咄嗟の駆け引き。自分でも随分浅ましいな、 と思う。でも、欲しくなった気持ちに嘘をつ いてはいけないとぼくに教えたのは、眼の前 で無言の内にぼくを誘う、彼。 幾ら僕が強請ったからと言って、渇きを癒 す為に寄越すのなら、別のグラスに注いだシ ャンパンにすれば良い。京介にシャンパン一 瓶は、一寸多い。 にも拘らず。ぼくの中の『目覚め』に気付 いているにも拘らず、彼は誘っていない振り をする。 ぼくから誘え、と無言の内に囁きながら。 「データが暴走しちゃったかな。一寸眠れ そうに無いや」 無邪気な振りで。何も知らなかった頃の無 邪気な振りで明後日の方を向いて。 「シャンパンじゃ眠れないか?」 眼鏡を外して、挑みかかる様にぼくを見つ める彼。其の目の色の変化に気付けるのは、 ぼくと多分もう一人。 「子供だ、って笑われるかも知れないけど」 「駄目。一人で寝なさい」 一言で切捨てて、資料に向き直る京介。で も、其の耳朶が少し赤く染まって、もう一押 し、とぼくを唆す。 「ぼくが眠るまで、一緒にいて欲しいんだ けど」 「………」 「もう少し気分が落ち着くまでで良いんだ けど」 「………」 それでも振り向かない。それだけこの資料 に興味を覚えたって事なんだろうか。当然と 言えば当然なんだろうけど………。 諦めよう。何時もなら無理矢理、って思え るけど、あんな夢の後で気持ちの消耗が激し い。どうせデータを夢で再現できる頭なんだ。 京介の姿から再現フィルム起こして、起き抜 けに下着取りかえってもの悪くないかも知れ ない。 そう思い直して、自分の部屋に行き掛けた。 「眠れない、と言うのは、疲れ足りないの もあるんだろうな」 皮肉めいた、でも何処か艶かしい声。 「奇妙な夢を中途半端に見るのも疲れたり 無いからなんだろうな。…最近、運動不足じ ゃないか?」 「かもね」 「思い切り疲れて眠る事が出来れば、其れ で良いと言う事だな。お出で」 「良い、の?」 「蒼が眠るまでね」 幽かに微笑んで、バスローブの前を寛げる。 と、歓喜の涙を溢した京介自身が伺える。 「凄…」 「焦らしているつもりで自分が焦れていた ら仕方ないけどね。蒼も脱いで御覧?」 言われるままに、自分の体から余分な布を 剥ぎ取ってゆく。溢れる程の期待を見せ付け る様に。 「お出で」 薄闇の中で一瞬緑に光ったかの様な、京介 の瞳。 「不安を搾り取って、僕で満たしてあげる。 眠れる様にね」 不意に壁を見ると、貪りあう二人の影……。 《コメント》 『翡翠の城』より。該当シーンはお判り でしょうか? 文庫化記念でネタばれ行きにしようかと も思ったのですが、折角だから、と言う 事で。 『翡翠』ならもう一つネタが出来そうな んですよね。其れは又何れ近日中に。 |