変な話を聞いた。
ヒロが夜な夜な女装して所謂「ハッテン場」を徘徊しているらしい。
ドラムスの里奈が証言してくれた。
「お兄ちゃんがそっちの人なの。だから別に偏見はないけどね」
さらりと言ってのけて、言葉を選んでゆっくりと、小声で話してくれる。
「最初は、冗談だと思ってたわ。ヒロって、その匂い無いもの」
「匂い?」
「うん、匂い。お兄ちゃんの影響で大体勘が働いちゃうの」
「…フーン」
戸惑う話に対して、何とか自分を納得させたぼくに、更にもう一言。
「でも、まだだ枯れてないわよ。男としても女としても」
「?」
「…あ、飛びすぎたかな、カズミには。つまり、心が女という訳で抱か
れていないし、男として男に抱かれてもいない。そういう意味。Understand?」
「Yes...」
まだ、引っ掛かってるのかな、EMIの事。
でも引っ掛かっていたにしても、彼女の追体験をして…どうしようと
言うのだろう。
だから、ぼくも行ってみる事にした。ヒロが徘徊している公園へ。
…好きになれないな、余り。ぼくにだって覚えの或る欲望だけど、
ここまであからさまでいいのかな?
四方八方から響く満足げな獣の声。勿論雄同志。季節外れの栗の花の
匂いで噎せ返りそうだ。ぼくも袖を牽かれそうになる。
そして、ヒロは居た。誘いをかわして、彷徨っていた。
「帰ろうか?」
腕を掴んだのがぼくだと判って、安心した様だった。
「訳、いい?」
とりあえずぼくのマンションに行って、コーヒーを淹れる。確か
ヒロの好みはエスプレッソ。幸い、豆を買ってみたところだった。
「言わなくちゃ…わからねぇよな、やっぱ」
「ん」
「EMIが生きてたらさ、俺、EMIに抱かれてたかも知れない」
尋常じゃないな。
「彼女、『女の子』だよ?理解してる?」
「心はな。でも、体は…」
「…君がそれを言ったら、殴るよ」
「その代わり、抱いてくれ、って言ったら?」
思い詰めた様に言って、ぼくに抱きついてくる。震えていても、
興奮していた。
「本気で言ってる?」
「カズミなら好い。無茶苦茶にして、自分を判らせてくれよ」
肩に雫が落ちる。連続的に。
「じゃ無きゃ、俺、EMIに胸を張れない…」
まず、唇を重ねて。
首筋からゆっくりと下ってゆく。ぼくが京介にして貰った様に。
「声は出してね。楽だし、ヒロも感じられるから」
上気した頬で軽くいやいやをしながらも、視線で頷く。
そして、律動に刺激を加える。最初は息遣いで撫でて、そして
舌で清めてゆく。
「カズ…ミッ…はや…く…」
一度、出しちゃおうか。
唇に少し力を加えただけで、ヒロは弾けた。でも、まだ元気だ。
「最後まで、イク?」
首が縦に振られ…ぼくは彼の中に2回吐き出した。彼がぼくを抱く
気配は、微塵も無かった。
「後悔、した?」
「全然。自分が判ってすっきりした」
「そっちの方?」
「じゃ無い。多分カズミとの繋がりを埋めたかったんだ。こういう
形とは、自分でも予想しなかったけどな」
本当に安心した顔だった。其の顔を見ながら、ぼくは自分の変化に戸惑う。
「…御免、ヒロ。出来ればもう一回、いい?」
「その次は一度、挿れさせろな?」
そして、夜は続いた。二人の関係も、続いてるけどね。