Night Lesson
「いい曲だね」
「そうか?音、歪んでない?」
「歪んでないよ」
そう言いつつ手元のスイッチをONにする。
「!」
一瞬にして紅く染まる頬。そして体から吹き出る汗。
体で快感を貪りながらも、指先は決して乱れていない。
その健気さが不意に愛しくなって、
背中から抱きついてみたりして。
「何?そっちがもう我慢の限界?」
「我慢なんて……判るでしょ?」
少なくともぼくの熱さは感じ取れる筈。
体の熱さ、もう一人の「ぼく」の熱さ…。
「この曲が終わってからな」
そうだね。折角カゲリが作ってくれた曲だもんね。
ぼく達が戯れているのは、カゲリの実家の地下にある
レッスンスタジオ。鍵付防音設備完備。時間は午前1時。
誘ったのはカゲリ。
「曲の感想聞きたいんで、聴いてくれるか?」
「作ったの?」
「久々にな。カズミ見てたら何となく浮んだんで」
「で、何処で弾くの?」
「んー。俺の実家」
「折り合い、良くなったんだ?」
「んにゃ、一時休戦なだけ。それに、
留守番が必要だって事だったし」
「?」
「親父もお袋もダブルで留守なんだよ。
家ん中俺一人。泊まりにこねぇ?」
「行く!」
そして、真夜中の新作発表会。
ただ普通と違うのは、ぼくとカゲリの衣装かな?
タキシードじゃなくて、蝶ネクタイを着けただけの裸。
そして、カゲリの中には『メトロノーム』。
「ノってたんじゃない?」
「久々だしな」
「此処も」
背中から抱きついてリズミカルに
揺れている熱さをじっと見る。
「メトロノームみたいだろ?」
「開放されたい?」
「その前に喉渇いた。良いだろ?」
居場所を変えて、ぼくが椅子に座る。
そして、熱さと湿り気に包み込まれる『ぼく』。
全身をメトロノームにしたかの様に、カゲリの舌が、口が
ぼくをリズミカルに攻め立てる…負けていられないと思って、
コントローラーのボリュームを不意に上げてみる。
「痛……」
「はふいははふひ……急にボリュームあげっから」
「だって」
「でも、痛いけど気持ちイイっしょ?俺も遣って貰ってるし」
ぼくを見上げる目が、かなり濡れている。
「もう一度、通しで聴いてみたいな」
「良いぜ。何遍でも」
でも椅子からは退いてあげない。
椅子の高さを低めに調整する。ぼくの上にカゲリが
座って、丁度良い高さになる様に。
「じゃ、出すな?」
少し強めに力むカゲリ。
そして生み出された『メトロノーム』。
「じゃ、最初からな」
ぼくの上のカゲリの体の揺れを感じながら、
音のさざめきに暫し酔っていた。