Y/E【仮題】

                                    其れは、一度だけの交わり。二重のタブーに
                   彩られた。だけどその記憶は、俺をずっと放そ
                   うとしないでいる。
                    …そして俺自身も、本当は開放なんて、一切
                   望んでいない。

                    きっかけはお互い、戯れのつもりだった。
                    『練習、付き合って』
                    「キスのか?」
                    『そう。失敗すんの、やだし』
                    「何で、俺?」
                    『身近だし、経験豊富そうだから』
                    「…多分お前とどっこいどっこいだぜ?」
                    そんな馬鹿げた遣り取りをしながら、顔を近
                   づける。お互いの口元から薫る、覚えのある薫
                   り。
                    「計算上?」
                    『そっちこそ』
                    「しょうがないだろ?何となく、噛んどいた
                   方が好いって思ったんだから」
                    『似てるよね、結局』
                    そして、触れ合う様にキス。
                    一瞬、電流が走ったかと思った。
                    「もう一度、いい?」
                    強請ったのは俺だった。
                    そして、深い口付け。多分止まらないだろう
                   と、お互い気付いた。今なら引き返せるだろう
                   とも。でも、其れを拒んだのは、明らかに意思
                   だった。

                    月明かりの下に曝け出された裸体…俺と同じ
                   時間を過ごした、見慣れた裸体の筈。なのに今
                   は、俺の理性に目隠しをして、本能的な征服欲
                   を呼び覚ます。
                    「最後まで、いいよな?」
                    抗われるかと思っていた。でも、首筋に回っ
                   て、俺の体を一層引き寄せた腕が、返事だった。
                    「初めてだぜ?」
                    『だから、いい』
                    瞳に、躊躇いは無かった。
                    その後の行為は、言うまでも無い。

                    今になって思う。
                    きっとあの行為は、あいつにとって肉欲故に
                   ではなく、自分が自分である事を確認する儀式
                   的なものだったのだろう、と。
                    俺の役割は、立会人にして先導者。皮肉な役
                   を貰ったものだ。あいつのその傾向を嫌ってい
                   たのは俺だったのに。
                    英、いや、EMI。
                    俺はお前を失うのが嫌だったんだ。だから、
                   あの言葉をつい吐いてしまった。
                    其れがお前を先に旅立たせる背中の一押しだ
                   なんて、まさか思わなかった。馬鹿、だよな。

                    今からでも、追いかけるのは、遅くないよな?


《コメント》
何となく、表作品とのリンクが見える
感じになりました。
独白をしているのは、『Y』の登場人
物…EMIの兄といえば、判りますね?
だからこその、二重タブーなのです。                   

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