そう広くないベッドの上、両サイドから寝息が聞こえる.微かで
静かなのと、昼にも増して騒々しいのと.確かに2ラウンドは体力
を消耗するだろう.僕の体に回した腕も解け、寝顔も無邪気なもの
だ.
どちらが好きか、だなんて愚かな問いだ。選べる訳がない.どち
らが欠けたとしても僕達の関係はそこで終わりを告げる.そしてそ
こから新しい関係が始まる事はないだろう.
誘いかけて、受け入れたのは僕.
微かな欲望があった事は否定しない.そしてそれは代償行為では
無かった.多分初恋に近い感情の影響だろう.異性とのコンタクトが
無かったのは単なる偶然だ.
何故、だなんて.ただ手放したくなかったとしか言いようが無い.
「…起きてたんか」
「一寸ね.起こしてしまったかな?」
「うとうと程度だっての!もう1ラウンド行けそうかな」
「どれどれ」
僕の体をまたがって、腕が伸びる.しなやかで、瑞々しい腕が.
「あは、ほんとだ」
「寝てたんじゃなかったのかよ、蒼猫」
やれやれ.一応は世を忍ぶ関係だと言うのにどうしてこう騒々し
いのかな.
「独り占めはずるいよ.僕もまだ大丈夫」
「みたいだね」
触れただけでも暴発しそうなしなやかさに、思わず手を伸ばす.
現金だな.最近は欲望が前面に出てきている.
「…ちょっ…京介ッ.…でちやう…よっ…」
「それは勿体無いな」
今暫くは快楽を味わおうか.答えは多分判っているから.
「さあ、今度はどの体勢にしようか」
おそらく僕達はお互いの傷を癒しているのだ.それぞれの役割を
演じる事によって.
かつては保護者対庇護者.それが蒼の成長によって均衡したバラ
ンスになった.それが崩れた時に、この関係は終わる.
その時を僕は、望みながら先延ばしにしたがっている.彼がパー
トナーに成長してくれるのを望みながら、同時に手放したくないと
もがいている.
深春にしても…彼の人生の可能性を奪うと判っていて、それでも
僕に巻き込んでしまったと言う負い目がある.
…均衡した関係だなんて奇麗事だな.僕が二人をエゴで縛っている
だけだ.
「深春」
「眉間の皺、だろ?」
「…話して、くれないよね」
「多分な.傍に居てやろうぜ」
「出来るだけね」
二人のパートナーは、天使を護るように抱きしめる.彼が少しで
も長く地上に留まるように.
パートナーの想いに、天使は気付いていない.彼を護る事が、彼
らの幸福なのに.