一仕事すんで、腹ばいになって一服。清
涼感が染み透ってゆく。同時に、目の前に
居る『愛人』の見せた痴態のフラッシュバ
ック。思わず頬が緩んでしまう。
「何にやけてんだよ、莫迦」
台詞と同時に眼の前で開閉される掌。
「で、何?この手」
「俺にも一本寄越せっての!」
「止めとけよ、未成年」
「お互い様じゃねぇか」
「じゃ、言い直そう。止めとけよ、小学
生」
剥れ顔の可愛さに思わず再燃しそうにな
る。良いけどね、若いんだし。
「其れ、俺も喫ってた銘柄なんだけどな」
「へえ?」
煙草会社に喧嘩売る訳じゃないけどさ、
偏見承知で言えば直径5ミリのメンソール
紙巻って言ったらあからさまに女性ターゲ
ットだぜ?新宿2丁目に屯するお姉さん方
でもあんまり喫わないと思うけど?
「最初普通の奴喫ったら噎せちまってよ
ぉ……。お袋に薦められたんだよな、此れ」
「やーい、マザコンでやんの」
「喧しい!」
埒が明かないと思ったのか、サイドテー
ブルに手を伸ばしてパッケージと煙草を引
っ手繰り、……美味そうに喫いやがるな、
こいつ。
「あのお嬢さんは喫ってないのか?」
「灰原?あいつ、好みがヘビーだから」
「……まさか50本缶入りがドンと机の
上に在るってんじゃないだろうな?」
「それならまだ良い。よりによって葉巻
だぜ?似合うから良いけどさ」
「……遣る。久し振りだろうし。大変だ
な」
「この形の不安よりはちっせぇけどな」
全くな。
正直言って俺も最初は悩んだもんな。こ
いつ、現江戸川コナン旧工藤新一と寝たく
なったのって、コナン時代になってからだ
もん。東の名探偵時代?正直言って萌えな
かった。多分其れはこいつって『人間』を
知らなかったからだろうけど。
……ま、ヤリタイ盛りのお年頃だしね。
知らない訳でもないし。でも、分別はある
ぜ?中身は如何あれ、流石に年下過ぎるも
んな。
其れも多分自分の気持ちに自信が持てな
かった原因。こいつ自身を好きになったの
か、それともこいつの体に惹かれてしまっ
たのか。正直自分を持て余してしまったか
ら。
「キッド」
「ん?」
「今更、後悔はしてない、よな?」
見透かされたかな?でも其れは過去の話。
「アダムの林檎って、あるよな?」
「はぁ?」
話を一生懸命繋げようとしてるこいつの
顔が可愛いのは俺だけの秘密。
「楽園追放か?」
「多分あの時さ、アダムは罰される事を
覚悟で食ったんだろうなって思って」
「共犯意識かよ」
「じゃ無くって、罰があったからこそっ
て事」
「何が言いてぇんだよ?」
「喜びには時に罪悪感もスパイスになる
って事。こう言う関係だったら三重にね」
「…難しい事考えてんじゃねぇよ。ま、
歳の差は見かけだけだし、男同士ってのは
認識の差だし、犯人と探偵ってのはお前が
捕まりゃ済む事じゃん」
けろりとした顔で言い返すと深く口付け
ながら火照り出した体を押し付けてきた。
「据え膳の準備、出来たぜ?喰わねぇの
か?」