「先生、どうなさいました？」 濁った視界の上で笑っている萌絵が見える。 「ちゃんと最後まで読まないとダメですよ。」 何故彼女は笑っているのだ？ 笑うトコロじゃないだろう。 「大体君は冗談とそうでないものの区別もつかないのか！？」 「ええ、この本は冗談ではなく『お話』ですわ。」 そう言ってまたも最後のページを開く。 さっきも見せられた『この物語はフィクションです』… ガラガラ。 扉が開く音が聞こえる。 顔を回すとそこには喜多が立っていた。 「よぉ、久振りだな、創平」 「喜多…なんてタイミングだ…」 喜多の登場に萌絵がこれぞ、とばかりにドアに忍び寄る。 さすが西之園家の娘。逃げ足は速い。 「あらっ♪喜多先生。じゃあ私はお邪魔ですね、それじゃあ…！！」 「あっ！待て、西之園君…」 追いかけようとするが喜多が邪魔で止められない。 すたこらさっさと逃げてしまった。 喜多の奴…なんの用なんだ…。 「まぁ、いいじゃないか、創平。」 良くない。大体喜多はあの本のことを知っているのだろうか？ 喜多は目ざとく犀川の机に置いてあった『例の本』を手にとる。 しまった。 「これが噂の…うへぇ…良く出来てるじゃないか…」 ヤバイ。 喜多の奴が喜んでいる。 こんな時は大抵… 「待てって創平。しっかし良く出来てるよなぁ、この本。 なぁ、この通りにやってみようか？」 …やはりそうか。 喜多は『しかっ』と犀川の手をとり、離そうとしない。 「んっ…」 いきなり胸倉を掴み…軽いキス。 嫌だ。 嫌だ。 嫌だ。 初めて高校生の時にされてから、いつもイヤだった。 「ほらほら、嫌がってる振りしても無駄だぜ、創平。」 そう、体は正直だった。 さっきから…下半身が正直に喜多の意思に答えている。 「えーっと何々。この後オレは創平の服を脱がして…ほうほう…」 しっかり萌絵の書いた本の通りにやる予定らしい。 犀川のカッターシャツをボタンを一つ、また一つとはずしていく。 「相変わらず薄い胸板してんなぁ…。そこが可愛いんだけど」 棒読みだ。 おそらくそう言うセリフがあるのだろう。 声とともに喜多は犀川の胸に顔を寄せて、犀川の固く なり始めた乳首を軽く舐める。 「ひっ…」 怯えの混じった声が漏れる。 「あれ？西之園さんの本にこのシーンないな…しかたない、省略。」 一舐めだけされただけの犀川の胸はまるで欲求不満の獣のごとき 存在感を放っている。 心で拒否していても体がしっかり求めているのだから言い訳の しようもない。 「なんだ、創平しっかり感じてるんじゃん。じゃ、次行こうか。」 ズボンを、そして下着を脱がし始める喜多。 しかし予想に反して下着の下の男性自身はいつも通りだった。 どうやら喜多はそれが不満のようだ。 屈みこんで犀川のそれを口にくわえ、舌で可愛がってくる。 「ふふ、ほーへこんなこひょひゃろーとおひょっは。」 どーせこんなことだろうと思った…だろうか？ 犀川のモノはその意思に反して、そして喜多に従うかの如く 成長してくる。 抵抗しようと思えば思うほど、成長の度合いが増すのだ。 「や、…め…」 もう、ダメだった。 いつもこうなんだ。 犀川の中の抑えていた感情が動きはじめる。 「はっ…」 ごくん。 白い液体が迸り、喜多がそれを飲み込む音が聞こえる。 「ふふっ♪相変わらず可愛いな、創平は。ほら…」 今度は犀川の後ろを獲ろうとするらしく、犀川に四つん這いの 姿勢を構えようとさせる。 「…ん…いやだ…」 「嫌だじゃないだろ？創平。創平だけ気持ちよくなって 俺だけないのは酷いぞ。」 そんな時だった。 救いの女神と呼んでいいんだろうか？ それとも地獄の鬼なのだろうか？ やってきたのだ、萌絵が。 「先生？いらっしゃいます？…え…？きゃ…何、これ…えぇー！？」 見られてしまった。 それも、一番きわどい辺りで。 「に、西之園君、これは…その…」 萌絵はひとしきり驚いた後、コクリと頷いた。 「ええ、誰にも言いませんわ、誰にも。」 良かった。 本当に良かった。 彼女がこんなに物わかりの良い娘だったとは。 「でも……」 何だ？ これ以上何があるんだ？ 天使に見えたのは嘘で、悪魔の娘だったのか？ 犀川の脳細胞を神経を経由して電気信号が光速で移動した。 時間が無限のように流れる…ような気がした。 そして、萌絵が口を開いた。 「同人誌には…しちゃうかも…」 爆死。 視界の端で喜多も固まっているのが見える。 「なんだか今度のはリアルに書けちゃう気がしますねっ♪」 萌絵の愉快な声だけが部屋に響くのであった。
《コメント》 柚助さん、久々の新作！今回は確りやおいです。 ハイ、色っぽいですね、犀川先生。 萌絵の気持ち、判ります。こんな美味しいネタ、 誰が逃せますか？
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